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冷たく饒舌な背中

昨日の続きです。
当時、書ける心境になかったのでやめたのですが、どうしても記録しておきたいので。
この時は、出来事を一行で終わらせています。
ホタテ遭難

その日、私は母の見舞いに来た甥を迎えに、新幹線のある街まで行きました。
車で一時間くらいかかります。
合流した甥とランチを食べながら「司法書士さんの事務所、この近くだったな。寄ってみよう。」
と思い立ち、電話をしました。

「近くにいるので寄らせてもらっていいですか?」
「いいですよ。今どちらですか?」
「○○です。」
「すぐ側ですよ。お待ちしています。」

いつもは自宅か病院に来てもらっていたので、事務所を訪れるのは初めてでした。
古びたアパートでした。
外階段を上がってインターホンを押しました。
いつものように朗らかで優しい笑顔の司法書士さんが迎えてくれました。

外観とは全く違って、部屋の中は新築のようにキレイでした。
広いワンルーム、立派な机、背の高い椅子、大きなパソコン。
無駄な物は置かれてなく、掃除がゆき届いていました。

「突然すみません。」
「いえいえ構いませんよ。少しお待ち下さい。」
フカフカのソファに甥と座りました。

ソファの後ろ、1メートルほどしか離れていないところに小さなキッチンがあって、彼はそこに入って行きました。

「お茶とか気を使わないで下さいね。」
と振り向いて私は声をかけました。
「はい、大丈夫です。吸い終わるまで待って下さい。」
と彼は私を見ずに答えました。

ソファとキッチンの間に衝立などはありません。
タバコをゆっくり吸う彼の後ろ姿がすぐ側にありました。

その瞬間、私は自分が招かれざる客であることを悟りました。
お茶を淹れるためにキッチンに行った、と思ってしまった自分を恥じました。
「この人は、今から私が何を言うのかを知っている。」

家の名義変更が終わり、書類を受け取ってから10日ほどでした。
お金はその時に全額お支払していました。
20万くらいだったと思います。

母の友人の紹介でした。
親切で腰が低く、温かい人でした。
手続きは迅速にやってくれました。
「お母様に書類を見せることができて良かった。」と喜んでくれました。

「本当にいい人を紹介してもらった。」と母はとても感謝していました。
私も同じ気持ちでした。
会う度に、ビールや我が家でできた栗などを渡しました。
いつも謙虚に嬉しそうにもらってくれました。

でも、今、この後ろでタバコを吸っている彼は、私たちの知っている彼とは全く違う顔をしている。
もう全てを分かって、そして私を軽蔑している。
ソファに座らせたまま、あえてタバコを吸い続けている。

いたたまれなくて、吸い終わるまでの数分間、
「やっぱりって帰ろうか。いや、それはおかしい。
、、、仕方ない。手短に聞くだけ聞いて帰ろう。」
会話はなく、彼が煙を吐き出す息の音だけが聞こえていました。

「お待たせしました。」
「先日はありがとうございました。
、、、あの、預貯金の方の相続なんですが、、、お願いできないでしょうか。」
「、、、お母様の状態ではとても無理だと思います。」
「そうですよね!ちょっと確認だけしておきたくて。お忙しいのにすみません。お時間取らせました。」

逃げるように事務所を後にしました。

友人の紹介で引き受けた相続案件。
兄弟3人、すぐハンコを押すって聞いていたのに、兄貴が押さずに時間をくった。
たいしたお金にもならないのに、何度も病院まで行くはめになった。
預貯金の相続でももめるのは確実だ。
俺はもうまっぴらゴメンだ。

彼の顔にはそう書いてありました。

母のいる病院まで車を飛ばしました。

今、私が深く傷ついたこの出来事。
人間とは本当に分からない、ということ。
私はタバコを消す価値もない、と示されたこと。
私はもう、どうすればいいか途方に暮れていること。
だから、ちょっと相談に乗って欲しかっただけ、それだけのことだったのに。
もちろん、母には言いませんでした。

これは亡くなる11日前の出来事でした。
続きます。

おやすみなさい

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(^o^)v
ゆきんこさん すい臓だったのですね。早く辛かったですね。頑張りましょう、強かった母の背中を目指して。
koroさん 話し合いでうまくまとまるのが一番良いですよね。私もまさか自分がこんなことになるとは思いもしませんでした。
まさこさん 親孝行だと思ってくれていたのなら良いのですが。もっと楽しい思い出話などで時間を使いたかったな。
H.Aさん 私も同じような土地を持っています。相続人が3桁かもしれません。もう手が付けられません。
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