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星にはなっていない

空を見上げます。
月を見ます。
星を見ます。

母はあの星でしょうか?月でしょうか?
それとも風になったのですか?

いいえ。
母は月にも星にもなっていません。

母は灰と骨になりました。
私が赤いボタンを押しました。
震える手で拾いました。

風になって私の側にいてほしい。
星になって瞬いてほしい。

現実はそんなセンチメンタルをぶっ壊してくれます。

来週から仕事復帰だ。手続きを早くしなければ。
役所へ行きます。
隅のカウンターに座らされます。
担当の人が端末に母の名前を入力します。
私がしなければならない手続きが画面に出ます。

少々お待ち下さい、と言われた後、
◯◯課の△△です。こちらに署名と印鑑をお願いします。では、少々お待ち下さい。
□□課の××です。こちらに署名と印鑑をお願いします。では、少々お待ち下さい。

これが繰り返されます。
ベルトコンベアーです。

毎日誰かが死ぬのです。
彼らはその手続きが仕事なのです。
私の町は人口5万に満たない小さな町です。
壁にかけられたボードには先月の死亡者数が書かれています。
確か、100人程度でした。
そのうちの1人が母なのです。100のうちの1。彼らは1日に数人やって来る、死亡者の手続きというルーティンをこなすのです。
上手に無駄なく、次の担当へとバトンを渡します。
親切です。気分を害すことはしません。慣れています。

「ここは楽ね。向こうから来てくれるなんて。私のところは自分で課を回るのよ。」
と姉が言いました。
事務的すぎてきついな、と思っていましたが、普通より良い扱いらしいです。

結婚や、離婚、出生届の手続きをする人たちの列に並び、黒く縁取られた死亡届けを差し出します。
戸籍や証明書をとって、お金を払います。死亡されたので結構です、なんて言われません。
それが、現実。人の死は毎日起こる普通の出来事なのです。
泣いて布団にくるまっていたい気持ちなどお構いなしに、法律に決められた手順通りに物事は淡々と進むのです。

還付金があります。口座番号を記入して下さい。
未納金は銀行で納付して下さい。
年金事務所は電話で予約して下さい。

そこに星や風は存在しません。

こんな類いのことをやり続けて、忌引き1週間後には働くのです。
ズタズタに切り裂かれた気持ちを癒すとか、そんなのないです。
容赦ない現実だけがあるのです。
星や風になる手続きがあれば、印鑑押したいです。

死にました。
手続きしました。
はい、元の生活に戻って下さい。
解散!

現実に心がついていきません。

あの星だ、と。
誰か教えてくれたら。
それを母だと思うから。
そう思いたいから。

おやすみなさい

(^o^)v←コメントありがとうのマーク

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