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熱情と幻 10

「どうしてここが、、、」
「市役所で聞いた。」

「何?」
「話がある。」

フォークリフトが忙しそうに行ったり来たり。

「今、話せないから、仕事終わるまで待ってて。あの喫茶店で。」

元職場のホテル、9階へ。
町を見渡せる窓際のソファに、サトルは座っていました。

「何?」
「、、、離婚することになった。」

「、、、で?」
「、、、今、離婚調停中なんだ。子供を引き取りたいと思ってる。鹿子に子供の面倒みてほしいんだ。」

「はぁ?私が?サトルの子供を?バカにしてるの?」
「、、、、、」

「オレとお前は関係ないって言ったのはサトルよ。」
「、、、、、」

「子供ができました、結婚します、さようなら。上手くいきませんでした、離婚します、子供よろしく。私って何?」
「彼氏は?」

「いない。サトルが結婚して、子供産まれて、幸せごっこしてる間、私がどんな風に生きてきたか、想像できる?」
「オレだって大変だったんだ。」

「いいじゃない。引き取りたいって思うくらい、子供が可愛いんでしょ?私は全てを失った。あの日、まるで汚い物を見るような目で私を見たよね。離婚します、はい元通りってなるわけがない。」
「美容師になった。店も出した。一緒に、、、」

「また、お母さんにお金出して貰ったの?」
「ビル、空いてたから。」

「お母さんに冷たくされ、お兄さんにいじめられ、それでも好かれようと頑張って、結局ボロ雑巾みたいに捨てられて。今度は家政婦代わり。本当に私って、都合のいい女なんだね、サトルにとって。」
「、、、姪と甥は元気か?」

「もう小学4年。」
「ねねちゃん、ねねちゃんって可愛かったよな。」

「、、、どうして戻って来たの?」
「、、、」

「好きでもない、関係ない女にどうして?」
「好きだったよ。」

「でも、邪魔だったんでしょ。」
「、、、」

「あんなに冷たく捨てて、また戻ってくるってどんな気持ちなの?本当に私のこと好きだったらこんなこと出来ないはずよ。」

私は、カバンからメンソールのタバコを出して、火をつけました。

「鹿子、お前、、、」
「タバコ吸う女嫌いだったでしょ。だから、吸うことにしたの。だって、関係ないものね。私が何をしても、サトルには関係ない。そう言ったのはサトルよ。」

「、、、」
「私はね、サトルを忘れるために生きてきたの。だから今更やめてほしいのよ。もう、あの時の私はいないから。」

大きな窓。
遠くを走る列車が、左から右へ。
それを見つめたまま、私はタバコを灰皿に押し付けました。

話しても無駄だ。
私の気持ちなんて分かるわけがない。
いや、分かりたいとも思っていないだろう。

テーブルに置かれた伝票を取ろうとしたら、
サトルが素早く手にしました。

「私が払うから。」
「いや、オレが。」

「やめてよ。いっつも私が払って、気にもしなかったじゃない。」

サトルは黙って会計を済ませました。

「忘れ物だぞ。」
差し出したサトルの腕には、
捨てられたはずの、私が贈った時計がはめられていました。

エレベーターを待つ間。

「とりあえず無理だから。もう会社には来ないで。」
カバンから、名刺を出し、サトルに渡しました。
「用があったら、携帯にかけて。」

前を向いて歩き始めていたはずなのに。

電話番号を渡したのはなぜ。

心の奥底に残っていた、未練が、そうさせたのだと思います。

(*・ω・)
まさこさん

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プロフィール

鹿子

Author:鹿子
母の闘病を綴ります。すい臓がんステージ4b。糖尿病併発。ジェムザール単剤での治療選択。

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