熱情と幻 9
- 2021/04/01
- 22:22
サトルが結婚をした。
私ではない、違う誰かと。
この道を真っ直ぐ行けば、彼らの家に着く。
サトルの髪を切ったあの部屋に。
海を見つめたあの窓辺に。
見知らぬ誰かが。
死のう、と何度も思ったけれど、
怖くて出来ませんでした。
母が差し出す手料理も喉を通らず、
テーブルを見つめて、ただ涙にくれました。
「早く、忘れなさい。男なんてたくさんいるんだから。」
「いや!サトルなの。サトルじゃないとダメなのよ!」
市役所を定時に終わった後、
私は家には真っ直ぐ帰らなくなりました。
1人になると、死にたい衝動に駆られて、
気が狂いそうでした。
誰でもいい。
側にいて欲しい。
友人と飲み歩き、
ナンパされれば付いて行き、
毎晩酒をあおって、
自分を痛め付けました。
「サトルが結婚したらしい。鹿子が荒れて大変らしい。」
私達のことは、友人みんなが知っていました。
赤い自転車、
遠距離恋愛、
大阪での半同棲、
別れたことも、
結婚したことも、
サトルが地元にいることも、
美容師になることも、
何もかも、全てを知られていました。
この町を出なければ、、、
けれど、私は考える力を失い、
環境を変える方法も、
もう何もかもが分からず、
ただ、その日の苦しみを紛らわすために、
夜遊びをすることだけに時間を費やしました。
私が何日も家に帰らなくても、
母は何も言いませんでした。
きっと、信じて待ってくれていたんだと思います。
約2年間、フラフラと、ただ生きているだけの日々を過ごしました。
出会いはたくさんありました。
好きになった人。
好きになってくれた人。
でも、誰かと真剣に向き合うことは出来ませんでした。
友人と、野球、母に支えられ、
ようやく自分の人生を考えることができるようになった頃、
私はすでに24歳。
いつまでも臨時職員ではいられない。
ちゃんと働かなきゃ。
知人の紹介で、地元では有名な企業へ就職。
頑張ろう。
新しい仕事。
新しい友人。
夜遊びはやめました。
平日は真面目に仕事をし、
野球部の練習に顔を出し、
週末は試合の応援。
新しい人生を生きるんだ。
ある日、同僚が私を呼びました。
「鹿田さん、お客さんよ。裏口に。」
裏口にお客?
倉庫を抜け、
開け放たれたシャッターの前まで行くと、
逆光の向こうに、背の高い男性が1人。
「誰?」
「鹿子。久しぶり。」
サトル。
暗闇に後ろ姿を消した、
振り向きさえしなかったサトルが、
真っ直ぐに私を見つめていました。
あの日、教室で、
振り向いたあの瞬間が、オーバーラップしました。
(*・ω・)
まさこさん
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私ではない、違う誰かと。
この道を真っ直ぐ行けば、彼らの家に着く。
サトルの髪を切ったあの部屋に。
海を見つめたあの窓辺に。
見知らぬ誰かが。
死のう、と何度も思ったけれど、
怖くて出来ませんでした。
母が差し出す手料理も喉を通らず、
テーブルを見つめて、ただ涙にくれました。
「早く、忘れなさい。男なんてたくさんいるんだから。」
「いや!サトルなの。サトルじゃないとダメなのよ!」
市役所を定時に終わった後、
私は家には真っ直ぐ帰らなくなりました。
1人になると、死にたい衝動に駆られて、
気が狂いそうでした。
誰でもいい。
側にいて欲しい。
友人と飲み歩き、
ナンパされれば付いて行き、
毎晩酒をあおって、
自分を痛め付けました。
「サトルが結婚したらしい。鹿子が荒れて大変らしい。」
私達のことは、友人みんなが知っていました。
赤い自転車、
遠距離恋愛、
大阪での半同棲、
別れたことも、
結婚したことも、
サトルが地元にいることも、
美容師になることも、
何もかも、全てを知られていました。
この町を出なければ、、、
けれど、私は考える力を失い、
環境を変える方法も、
もう何もかもが分からず、
ただ、その日の苦しみを紛らわすために、
夜遊びをすることだけに時間を費やしました。
私が何日も家に帰らなくても、
母は何も言いませんでした。
きっと、信じて待ってくれていたんだと思います。
約2年間、フラフラと、ただ生きているだけの日々を過ごしました。
出会いはたくさんありました。
好きになった人。
好きになってくれた人。
でも、誰かと真剣に向き合うことは出来ませんでした。
友人と、野球、母に支えられ、
ようやく自分の人生を考えることができるようになった頃、
私はすでに24歳。
いつまでも臨時職員ではいられない。
ちゃんと働かなきゃ。
知人の紹介で、地元では有名な企業へ就職。
頑張ろう。
新しい仕事。
新しい友人。
夜遊びはやめました。
平日は真面目に仕事をし、
野球部の練習に顔を出し、
週末は試合の応援。
新しい人生を生きるんだ。
ある日、同僚が私を呼びました。
「鹿田さん、お客さんよ。裏口に。」
裏口にお客?
倉庫を抜け、
開け放たれたシャッターの前まで行くと、
逆光の向こうに、背の高い男性が1人。
「誰?」
「鹿子。久しぶり。」
サトル。
暗闇に後ろ姿を消した、
振り向きさえしなかったサトルが、
真っ直ぐに私を見つめていました。
あの日、教室で、
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(*・ω・)
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