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熱情と幻 9

サトルが結婚をした。

私ではない、違う誰かと。

この道を真っ直ぐ行けば、彼らの家に着く。

サトルの髪を切ったあの部屋に。
海を見つめたあの窓辺に。

見知らぬ誰かが。

死のう、と何度も思ったけれど、
怖くて出来ませんでした。

母が差し出す手料理も喉を通らず、
テーブルを見つめて、ただ涙にくれました。

「早く、忘れなさい。男なんてたくさんいるんだから。」
「いや!サトルなの。サトルじゃないとダメなのよ!」

市役所を定時に終わった後、
私は家には真っ直ぐ帰らなくなりました。

1人になると、死にたい衝動に駆られて、
気が狂いそうでした。

誰でもいい。
側にいて欲しい。

友人と飲み歩き、
ナンパされれば付いて行き、
毎晩酒をあおって、
自分を痛め付けました。

「サトルが結婚したらしい。鹿子が荒れて大変らしい。」

私達のことは、友人みんなが知っていました。

赤い自転車、
遠距離恋愛、
大阪での半同棲、
別れたことも、
結婚したことも、
サトルが地元にいることも、
美容師になることも、
何もかも、全てを知られていました。

この町を出なければ、、、

けれど、私は考える力を失い、
環境を変える方法も、
もう何もかもが分からず、
ただ、その日の苦しみを紛らわすために、
夜遊びをすることだけに時間を費やしました。

私が何日も家に帰らなくても、
母は何も言いませんでした。

きっと、信じて待ってくれていたんだと思います。

約2年間、フラフラと、ただ生きているだけの日々を過ごしました。

出会いはたくさんありました。
好きになった人。
好きになってくれた人。
でも、誰かと真剣に向き合うことは出来ませんでした。

友人と、野球、母に支えられ、
ようやく自分の人生を考えることができるようになった頃、
私はすでに24歳。

いつまでも臨時職員ではいられない。
ちゃんと働かなきゃ。

知人の紹介で、地元では有名な企業へ就職。

頑張ろう。

新しい仕事。
新しい友人。

夜遊びはやめました。
平日は真面目に仕事をし、
野球部の練習に顔を出し、
週末は試合の応援。

新しい人生を生きるんだ。

ある日、同僚が私を呼びました。

「鹿田さん、お客さんよ。裏口に。」

裏口にお客?

倉庫を抜け、
開け放たれたシャッターの前まで行くと、
逆光の向こうに、背の高い男性が1人。

「誰?」
「鹿子。久しぶり。」

サトル。

暗闇に後ろ姿を消した、
振り向きさえしなかったサトルが、
真っ直ぐに私を見つめていました。

あの日、教室で、
振り向いたあの瞬間が、オーバーラップしました。

(*・ω・)
まさこさん

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