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熱情と幻 8

もう、離れて行く彼の心に私の言葉は届かないと悟りました。

専門学校を卒業するまで、静かに待っていよう。

市役所で親しくなった職員さんに、
野球部のマネージャーをやらないか、と誘われました。

もともと高校野球を見るのが好きだった私は、
2つ返事で了承しました。

定時、17時になったら、グラウンドへ。

ただボーッと白球と空を見つめているだけでも、
1人で時間を過ごすよりはマシでした。

サトルは元気だろうか。
サトルは本当に迎えに来てくれるのだろうか。
サトルに会いたい。

そんな思いを振り払いたくて。

土日は試合。
凍らせたジュースを持って、
スコアを付けて、
声を張り上げて応援。

何かをしていれば、サトルのことを忘れられる。

もう少し。
もう少しで、彼が卒業する。

ある日、サトルからの電話。

「鹿子、オレ、結婚することになった。」
「、、、何言ってるの?」

「子供ができた。」
「やめてよ、、、」

「やっぱり鹿子には言っておかなきゃって思って。」
「冗談でしょ?」

「地元に帰ってる。」
「ギターは、、、」

玄関に突っ伏して泣き崩れました。

理解できない。
結婚?
なんで?

彼の話が本当のことである、
それだけは、声のトーンから分かりました。

生きていけない、と思いました。

どうしても、彼と話がしたくて、
私は彼の家へ向かいました。

涙を拭いながら、海岸線をひた走り、
駅前に車を停めました。

サトルは、ここを絶対に通る。

私は半日、彼を待ち続けました。

夜、私の車の横を通り過ぎようとした、
彼の腕を掴みました。

「サトル!」
「鹿子かよ。やめろよ!こういうことするの。」

「車に乗りなさいよ。」
「嫌だ。お前、何するか分からない!」

改札口から出て来た人たちが、
泣き叫ぶ私を不審な目で見つめていました。

私の手を振り払いながら、
「車の鍵貸せ。」
と、サトルは冷たく言いました。

「何にもしないってば!」
「いいから渡せよ!」

無理矢理私から鍵を奪い取って、
サトルは助手席に乗り込みました。

「なんだよ。」
「どうして?ギターは?」

「やめた。子供出来たんだから仕方ないだろ。」
「絶対、ギターリストになるって言ったじゃない!だから、私、邪魔しないようにって、、、」

「もうオレ達、別れてるだろ!」
「迎えに行くって、、、」

「子供ができたんだよ!」
「じゃぁ、私も子供作れば良かった!子供作ればサトルといられたんでしょ!そうすれば良かった。バカみたい!」

「もう、関係ないだろ、オレとお前は!」
「、、、ねぇ、お願い、ここには住まないで。大阪で暮らせばいいじゃない。同じ町なんて、、、お願いよ。お願いだから、、、」

「できるかよっ、そんなこと!母ちゃんに金出して貰って美容学校行ってるんだ。子供だって生まれるのに。」
「、、、私、愛してたんだよ。本当に。サトルの手が無くても、足が無くても、何だっていい。本当に、、、」

「オレ、忙しいんだ。嫁が待ってるから帰るぞ。」

鍵を乱暴に渡す彼の腕には、
真新しい時計がありました。

「それ、、、」
「嫁から貰った。」

「私があげたのは、、、」
「、、、捨てた。」

バン!
冷たく車のドアを閉め、足早に去って行くサトルの後ろ姿。

お願い、振り向いて!

そんなことをするわけもなく、
すぐに暗闇へと消えてゆきました。

どうしよう。
どうしよう。

震える手を見つめても、ただ涙が流れるだけでした。

列車の到着アナウンス。

顔を上げれば、古い駅舎。

18歳、煌めく季節、何度ここを二人で歩いただろう。
あの時に戻れたら。

こんな風に終わっていくことを知っていたなら、
あんなに愛したりしなかったのに。

自分に言い聞かせる。
これは、どこにでも転がっている失恋話。

好きになって、
終わって、
ただそれだけ。

あの時、手にした、幸せ行きと印された切符は、
いつしか擦りきれ、その文字はすでに消えていました。

さよなら。
さよなら。
さようなら。

愛など幻だと知った22歳。

(*・ω・)
ポメさん、まさこさん

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