熱情と幻 7
- 2021/03/30
- 22:22
ゆっくりする間もなく、
「早く働け」と母に急かされ、
私は、新規オープンする地元のホテルで正社員として働き始めました。
まだ免許を取っていなかった私は、
赤い自転車に乗って、
朝早くから、夜遅くまで。
夕飯を社員食堂でとって、
次の仕事までの合間にサトルに電話。
「サトル、会いたいよ。」
「オレ、ギター上手くなったって言われた!」
「そう、、、来月、大阪に遊びに行くから。」
「オレの部屋には泊めないぞ。」
「分かってる。」
毎月のように、大阪へ。
給料は全て交通費と遊興費で消えました。
別れたとは言っても、
互いに好きだという気持ちは、そのままで、
私が大阪へ行く度に会っていました。
友達と遊んで、サトルと会って、
泊めない、と言われても、
私は構わず朝までサトルの部屋で過ごしました。
ある日、いつものように、
仕事の合間にサトルに電話をしました。
「会いたいよ。」
「もう、別れてるんだから、、、」
「どうしてそんなこと言うの。」
「女ができた。」
「え?」
「他の女と付き合うことになった。」
「意味が分からない。」
「どうしても付き合いたいって言われた。」
「ギターがしたいから私と別れたんじゃないの?」
「そいつ、ギターのこと理解してくれるから。」
泣きじゃくる私を無視して、
サトルは電話を切りました。
私が邪魔だから、地元へ帰しただけ。
近くにいてもダメ、離れてもダメ、
私は愛されてなんてなかった。
ホテルは、オープンした後も、
忙しさがおさまることはなく、
毎日、真夜中まで働きました。
体力の限界。
半年ほどで、私は会社を辞めました。
「これからどうしよう。」
高卒、専門学校中退、スピード離職。
彼氏なし。
途方に暮れる20歳の冬。
成人式には、出席しませんでした。
母にお金を借りて、自動車免許取得。
母の知人のコネで、市役所の臨時職員として働き始めました。
税務課で、お茶出し、新聞の管理。
たまに窓口対応。
誰にでも出来る簡単な仕事。
定時に帰って、姪と甥と戯れる日々。
サトルに会いたい。
どんなにひどいことを言われても、
私はサトルが好きでした。
そして、サトルが私を好きだ、いうことも分かっていました。
サトルからの連絡は途絶えなかったし、
私も、たまに大阪へ遊びに行くことは止めませんでした。
「ねぇ、その彼女のこと、好きなの?」
「あぁ、普通に。」
「私のことは?」
「、、、愛してる。」
「どうして一緒に居られないの?」
「お前といると、ギター止めたくなるんだよ。でも、オレはギターリストになって、成功して鹿子と結婚したいんだ。頼むから、待っててくれよ。」
「女を作る意味が分かんない。」
「女がいれば、鹿子もオレを諦められるだろ?」
どこまでも勝手な言い分を、
嘘だと分かっていても、信じたい自分がいました。
夏。
帰省した彼と会いました。
彼のおばさんが経営する旅館を手伝って、
差し出されたコーヒーを飲む私に、おばさんは言いました。
「鹿子ちゃん。サトルのことが本当に好きなのね。」
「はい。」
「サトルは今ね、ギターのことだけなの。あなたがいると、思うように出来ないのよ。いつか帰って来ることを信じて、今は身を引いて。」
「、、、でも、、、」
「サトルを信じてやってほしいの。」
「私、どうしたらいいか、、、」
「大丈夫。絶対大丈夫だから。サトルはあなたのことが好きなんだから。」
開け放った窓から、潮騒が響く夕暮れ。
私はただ涙を流していました。
愛するだけでは生きていけないと知った21歳。
(*・ω・)
まさこさん
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「早く働け」と母に急かされ、
私は、新規オープンする地元のホテルで正社員として働き始めました。
まだ免許を取っていなかった私は、
赤い自転車に乗って、
朝早くから、夜遅くまで。
夕飯を社員食堂でとって、
次の仕事までの合間にサトルに電話。
「サトル、会いたいよ。」
「オレ、ギター上手くなったって言われた!」
「そう、、、来月、大阪に遊びに行くから。」
「オレの部屋には泊めないぞ。」
「分かってる。」
毎月のように、大阪へ。
給料は全て交通費と遊興費で消えました。
別れたとは言っても、
互いに好きだという気持ちは、そのままで、
私が大阪へ行く度に会っていました。
友達と遊んで、サトルと会って、
泊めない、と言われても、
私は構わず朝までサトルの部屋で過ごしました。
ある日、いつものように、
仕事の合間にサトルに電話をしました。
「会いたいよ。」
「もう、別れてるんだから、、、」
「どうしてそんなこと言うの。」
「女ができた。」
「え?」
「他の女と付き合うことになった。」
「意味が分からない。」
「どうしても付き合いたいって言われた。」
「ギターがしたいから私と別れたんじゃないの?」
「そいつ、ギターのこと理解してくれるから。」
泣きじゃくる私を無視して、
サトルは電話を切りました。
私が邪魔だから、地元へ帰しただけ。
近くにいてもダメ、離れてもダメ、
私は愛されてなんてなかった。
ホテルは、オープンした後も、
忙しさがおさまることはなく、
毎日、真夜中まで働きました。
体力の限界。
半年ほどで、私は会社を辞めました。
「これからどうしよう。」
高卒、専門学校中退、スピード離職。
彼氏なし。
途方に暮れる20歳の冬。
成人式には、出席しませんでした。
母にお金を借りて、自動車免許取得。
母の知人のコネで、市役所の臨時職員として働き始めました。
税務課で、お茶出し、新聞の管理。
たまに窓口対応。
誰にでも出来る簡単な仕事。
定時に帰って、姪と甥と戯れる日々。
サトルに会いたい。
どんなにひどいことを言われても、
私はサトルが好きでした。
そして、サトルが私を好きだ、いうことも分かっていました。
サトルからの連絡は途絶えなかったし、
私も、たまに大阪へ遊びに行くことは止めませんでした。
「ねぇ、その彼女のこと、好きなの?」
「あぁ、普通に。」
「私のことは?」
「、、、愛してる。」
「どうして一緒に居られないの?」
「お前といると、ギター止めたくなるんだよ。でも、オレはギターリストになって、成功して鹿子と結婚したいんだ。頼むから、待っててくれよ。」
「女を作る意味が分かんない。」
「女がいれば、鹿子もオレを諦められるだろ?」
どこまでも勝手な言い分を、
嘘だと分かっていても、信じたい自分がいました。
夏。
帰省した彼と会いました。
彼のおばさんが経営する旅館を手伝って、
差し出されたコーヒーを飲む私に、おばさんは言いました。
「鹿子ちゃん。サトルのことが本当に好きなのね。」
「はい。」
「サトルは今ね、ギターのことだけなの。あなたがいると、思うように出来ないのよ。いつか帰って来ることを信じて、今は身を引いて。」
「、、、でも、、、」
「サトルを信じてやってほしいの。」
「私、どうしたらいいか、、、」
「大丈夫。絶対大丈夫だから。サトルはあなたのことが好きなんだから。」
開け放った窓から、潮騒が響く夕暮れ。
私はただ涙を流していました。
愛するだけでは生きていけないと知った21歳。
(*・ω・)
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