裏切りの影踏み23
- 2019/12/31
- 22:22
「しまった!返さないと!」そう思った鹿子は、しどろもどろになりながら、鹿美に言いました。「母さん、あのね、もうちょっと見たい物があって、、、で、あの、、、」「あんた、ポケットに入れてるもん何なの!?」鹿子は、仕方なくポケットの中の商品を鹿美に差し出しました。「違うの!試供品と思ったの!」「あんたって子は!!万引きなんかして!母さん恥ずかしい!」怒った鹿美は、鹿子を置いてきぼりに一人で帰ってしまいま...
裏切りの影踏み22
- 2019/12/30
- 22:22
小さく炎を上げる写真は、鹿子の一番辛い記憶を呼び起こしました。小学6年。鹿美と鹿子は、スーパーへ買い物に行きました。鹿美と別れて店内を見て歩く鹿子。厚紙に貼られた小さな雑貨。「何の試供品だろう?母さんにあげたら喜ぶかな。」鹿子は、その試供品をポケットに入れました。鹿美と合流して外へ。鹿美の後ろを歩く鹿子。ポケットに入れた試供品を探り出し、母さんに見せようと思った瞬間、試供品に値札が貼ってあるのに気...
裏切りの影踏み21
- 2019/12/29
- 22:22
「年賀状来てたよ。」鹿子は、鹿美に年賀状の束を渡しました。そして、台所へ行き、水屋の引き出しをそっと開けました。気付かれないようにライターを手に取り、裏庭へと戻りました。田んぼに下りて、七郎からのハガキをポケットから出し、もう一度開きました。『お元気ですか?私達は、皆元気です。』笑顔の写真の横には、この一文だけ。謝罪はない。そのことを確認して、ハガキを散り散りに破りました。ライターで火をつけました...
裏切りの影踏み20
- 2019/12/28
- 22:22
全てを見たくない。そして、住所を覚えたくない。住所を見てしまったら、自分が何をしでかすか予想すらできませんでした。もしも、七郎に対峙して、涙ながらに許しを請われたとしたら、どうだろうか。いや、例え、土下座をされたとしても許せない。 目の前に大金を積まれたとしても許せない。もう、変わってしまった家族の形は帰ってこないのだ。父のあの屈託のない大きな笑顔。母のあの全てを忘れさせる優しい微笑み。平穏に過ぎ...
裏切りの影踏み19
- 2019/12/27
- 22:22
鹿子は、誰にも見つからないように、そっと裏庭へと行きました。丸めたハガキを震える指先で広げると、そこには笑顔の家族写真がありました。差出人は、鹿田七郎。写真に添えられた短い挨拶文。『お元気ですか?私達は、皆元気です。』顔も知らぬ叔父一家。会ったこともない従兄弟たち。憎むなどと言う言葉では表せない黒い感情。お元気ですか?お元気ですか?はぁ?借金を肩代わりした父に対する言葉がそれですか。鹿子は、もう一...
裏切りの影踏み18
- 2019/12/26
- 22:22
鹿子が中学卒業と同時に叔父への借金返済終了。いくら時が経っても忘れられない七郎の裏切り。けれども、判を押した鹿男が悪いのだ。仕方ない。飲み込んで生きてゆくしかない。高校1年の元旦。鹿子は、静かに玄関を開け、郵便ポストへと手を伸ばしました。太陽が優しく鹿子の顔を照らしていました。今年は何枚来たかな?ポストに落とされた年賀状をうきうきと手に取りました。家に入るのももどかしく、玄関先で年賀状を繰りました...
裏切りの影踏み17
- 2019/12/25
- 22:22
クリスマスのチキンなど。誕生日のケーキなど。そんなものは何一つありませんでした。「今日、クリスマスだって!」「何がクリスマスよ!あんたキリスト教徒なんかね?」「誕生日だよ、おめでとうくらい言ってよ!」「生きてれば歳とるのよ!」ブランコを漕ぐ私を優しく見つめた母はどこへ行ってしまったのだろうか。長い年月の苦労が母を変えてしまいました。お金、お金、お金。親戚は、愚かな父を嘲り、誰も手を差し伸べてはくれ...
裏切りの影踏み16
- 2019/12/24
- 22:22
グレた兄は家には滅多に帰って来なくなりました。たまに帰ると、鹿美が隠しているなけなしのお金を奪っていきました。「母さん、兄ちゃんにあげるお金あるなら、私の給食費払ってよ!」「あんたは黙ってなさい!」すすり泣く鹿美。家にいたくない。学校にも行きたくない。でも、どこにも行くところがない。心の拠り所はなく、精神は歪みました。頭は円形脱毛症。ゴッソリと髪の毛が抜け、いくつものハゲができました。鹿子は、ひた...
裏切りの影踏み15
- 2019/12/23
- 22:22
七郎の裏切りは、鹿男を変えました。酒を手放せなくなり、毎晩深酒をするようになりました。酔った鹿男は、鹿子が泣くまで絡み続けました。鹿美が小言を言うと「なんだとぉ?」と凄んで鹿美を殴りました。「止めて!」泣き叫ぶ鹿子。あんなに優しかった鹿男を、七郎と金が豹変させたのです。鹿子は、何度も思いました。「生まれて来なければ良かった。」毎晩繰り返される父親の恫喝、暴力。叫ぶ母親。遠い日の優しい記憶が、鹿子の...
裏切りの影踏み14
- 2019/12/22
- 22:22
友達の誕生会。行くことはありませんでした。プレゼントを買うことは許されなかったし、自分の誕生会を開くこともできなかったからです。「行けなくてごめんね。お母さんが迷惑だから行っちゃいけないって。」嘘ばかりつきました。遠足。1つしかない貰い物のボロいリュックサック。鹿江は、鹿子にリュックを譲り、鹿江は紙袋で行きました。「こんなので行きたくない!」「お姉ちゃん譲ってくれたんだよ!」「だって、みんな可愛い...